親の都合で引越しをくり返していた私は 、
気づけば常に 「転校生 」という存在だった 。

初めて 、新しい学校に行くことも 、
新しいクラスの前で挨拶することも 、
慣れることなんて一度もなかった 。

いつも 「よそもの 」から始まり 、
「ともだち 」になったかと思えば 、
また新しい場所で 「よそもの 」になる 。

小学校から高校まで 、
同じ場所で過ごした人が 、
うらやましかった 。

「地元 」 「いつものメンバ ー 」を持っている人 、
子どもの頃の大切な思い出すべてが詰まった
宝物のような 1つの場所を持っている人が 、
うらやましくて 、たまらなかった 。

私の思い出は 、色んな場所に散らばっている 。
だから 、今回 、そのカケラを探しに来たかったのかもしれない 。

「あなたが過去に残してきたことは、なんですか?」より



その知らせが来たのは 、
お花の図鑑を読むのをやめ 、
ベトナム産のコ ーヒ ーをいれているときだった 。

「はい 、分かりました 」すぐ近くにあったネタ帳に 、
その病院の名前と都道府県の名前を書いた 。

少しの間 、気まずい沈黙があった 。

電話の向こうの相手が
何か言おうとしているのが感じ取れた 。

私は 、それが自分の聞きたくないことだと分かっていた 。
だから 、連絡をくれたことにお礼を言って 、切り上げた 。

「ときおり」より



「わたし 、あなたのことが 、キライ 」
初めてこんなにはっきりと言われたのは
小学校五年生の頃だった 。

というか 「キライ 」と言われたのは 、
このときが最初で最後 。

「酢豚な思い出」より




私は予定日より二週間早く生まれてきた 。
そんな私につけられた名前は 、早苗 。

今の苗字が早川だから少し笑える 。
早川は母の再婚相手の名前だ 。

小学校五年生のとき 、名前が変わる一週間前に転校した 。
その頃は 、まだよくわからなかった 。

どうして自分の名前が変わると
学校も変わらないといけなかったのか 。

「その先に」より




母は 、何度も子供の頃の話を聞かせてくれた 。
その頃の思い出を胸にして行きたい 、と言わんばかりに 。

隣で 、手をにぎって 、私の話を聞いてほしい 。
それが母の最後の願いだった 。

にぎった手の体温が 、
ゆっくりと消えていった 。

「ありがとう、ごめんなさい、さようなら」より

 
past


「過去」をモチーフにした短編・超短編集です。
よかったら手にとってみてください。